この記事は理学療法士・認定マッケンジーセラピスト(Cred. MDT)が執筆しています。整形外科外来やリハビリの現場での経験をもとに、できるだけ専門用語を使わず、わかりやすく解説します。
あぐらをかくと、膝が高く浮いてしまう。靴下をはくのがつらい。足の爪が切りにくい。しゃがむのがきつい。
——こうした「股関節まわりの硬さ」を、感じていませんか。
年齢とともに、あぐらや靴下の動作がつらくなってくる方は、とても多いです。そして「とりあえず股関節を伸ばそう」とストレッチを始めるものの、なかなか変わらない——そんな経験はないでしょうか。
申し遅れました。はるとです。理学療法士として7年、整形外科の現場で体の痛みや動きにくさを診てきました(認定マッケンジーセラピスト/Cred. MDT)。
この記事でお伝えしたいのは、「股関節が硬い」といっても、その原因は人によって違う、ということです。だから、みんなが同じストレッチをしても、変わる人と変わらない人が出てくる。大事なのは、まず自分がどこで止まっているかを知ること。その見分け方と、タイプ別のケアの考え方をお伝えします。
※ ただし、最初に必ず読んでください。 次の「こんな時は、すぐ受診を」に当てはまる場合は、この記事のセルフケアより先に、医療機関を受診してください。
⚠ まず確認|こんな時は、すぐ受診を
次のいずれかに当てはまる場合は、自己判断でのセルフケアを避け、医療機関を受診してください。
- 転んだ・ぶつけた後に、動きにくさや痛みが出た(体重をかけると激痛の場合は特に注意)
- 安静にしていても痛む、夜間や明け方に痛みで目が覚める
- 発熱を伴う、股関節が赤く腫れて熱を持っている
- 動かせる範囲がだんだん狭くなってきた、痛みが日ごとに強くなる
- 脚のしびれ、力が入りにくい、つまずきやすい
- がんの治療歴がある、原因不明の体重減少がある
特に、動く範囲がどんどん狭くなる、歩き方が変わってきた、脚の付け根の奥がいつも痛い——といった場合は、股関節そのものの問題(変形性股関節症など)のこともあります。一度、整形外科で診てもらうと安心です。
これらに当てはまらない方は、このまま読み進めてください。
なぜ、あぐらや靴下がつらくなるのか
まず知っておいてほしいのは、「股関節が硬い」と感じる動作は、股関節だけで起きているわけではない、ということです。
あぐら、靴下、爪切り、しゃがみ込み。これらはどれも、股関節・腰・膝が一緒に働いて、はじめてラクにできる動作です。どこか一か所が動いていないと、その動作全体がつらくなります。
そして、この「動いていない場所」が、人によって違うんです。
- 腰が丸まったままで、反る動きが出にくい人
- 股関節を深く曲げられない人
- 脚を開く動きが苦手な人
- 膝が伸びきらない人
みんな同じ「あぐらがつらい」でも、止まっている場所はバラバラ。だから、自分がどのタイプかを知らずに、やみくもにストレッチをしても、変わりにくいんです。次に、その見分け方をお伝えします。

臨床で感じること
ここからは、私が現場で感じていることをお話しします。
股関節の硬さを訴える方を診ていて、まず思うのは、原因が本当に人それぞれだということです。同じ「あぐらがつらい」でも、腰で止まっている人、股関節で止まっている人、脚の開きで止まっている人がいる。だから、「これをやれば全員が改善する」という万能のストレッチは、正直、ありません。
そのうえで、私の実感として一つ言えるのは、お尻(臀部)の硬さが関わっている方が、とても多いということです。お尻が硬いと、股関節がスムーズに動かず、あぐらや靴下の動作にブレーキがかかります。ここがゆるむと、動きが変わる方が多い印象です。
お尻の硬さが付け根の痛みにつながるケースについては、立ち上がるときに足の付け根が痛い|その原因、股関節だけじゃないかも で詳しくお伝えしています。
そして、もう一つ大事なこと。**「どの方向に動かすと、ラクになる反応が出るか」**を見つけられるかどうかが、分かれ道になります。やみくもに全部やるのではなく、自分に合う方向が見つかったら、そこに時間を使う。これが一番、効率がいいんです。
だから私は、患者さんに「見分けること」と「続けられる形にすること」をいつもお願いしています。1日のどのタイミングでやるか、どこか整えやすい環境はないか、ちょっとした空き時間で体を動かせないか——そうやって生活の中に組み込む工夫まで含めて、はじめて硬さは変わっていきます。
家でできる|あなたはどのタイプ?
自分がどこで止まっているかを、家で確かめてみましょう。痛みが強い日や、動かして足に痛み・しびれが広がる場合は、無理をせず中止してください。
次の動作のうち、一番つらい・やりにくいものが、あなたのタイプのヒントになります。
タイプ①|「曲げる」が苦手(靴下・爪切り・しゃがみがつらい)

椅子に座って、片方の足首を反対の太ももにのせようとすると、つらい・組みにくい。しゃがもうとすると、かかとが浮く、後ろに倒れそうになる。
→ 股関節を深く曲げる動きで止まっているタイプです。
タイプ②|「開く」が苦手(あぐらで膝が高く浮く)

あぐらをかくと、膝が床から大きく浮いてしまう。左右で浮き方が違う。開脚しようとすると、内ももや付け根が突っ張る。
→ 脚を開く動きで止まっているタイプです。
タイプ③|「腰が丸まったまま」(背中を伸ばすとラクになる)

床に座ると、腰が後ろに倒れて丸まってしまう。背すじを伸ばそうとすると、途端にあぐらや前かがみがラクになる。
→ 股関節そのものより、腰が反れないことが動作を邪魔しているタイプです。
タイプ④|「膝が伸びない」

脚をまっすぐ前に伸ばして座ると、膝の裏が浮く、突っ張る。膝が伸びきらないことで、座り姿勢全体が窮屈になる。
→ 膝の動きが、股関節の動作の足を引っぱっているタイプです。
多くの方は、①②(曲げる・開く)+お尻の硬さが関わっています。ただ、③④が隠れていることもあります。一つに絞れなくても大丈夫。「一番つらいのはどれか」が分かれば十分です。
タイプ別|どうケアするか
ここが本題です。大事なのは、全部をやろうとしないこと。自分のタイプに合う方向を見つけて、そこに時間を使うのが近道です。目安は「痛気持ちいい」まで。足に痛みやしびれが広がったら中止してください。
まず、多くの人に共通する「お尻をゆるめる」
タイプに関わらず、お尻の硬さが関わっている方は多いです。ここは共通のスタートとして。
- 横向きで、上の膝をゆっくり開く(横向きに寝て両膝を軽く曲げ、かかとはつけたまま、上の膝を開いて閉じるをくり返す)
- 仰向けで、お尻を持ち上げる(仰向けで両膝を立て、お尻をゆっくり上げて下ろす)
お尻まわりが動くと、股関節全体が動きやすくなります。

タイプ別の「ラクになる方向」を足す
- ①曲げるが苦手 … 仰向けで、片膝を両手で抱えて胸に近づける。股関節を曲げる方向を、やさしく広げる。
- ②開くが苦手 … 座って、あぐらの姿勢で軽く膝を外に開く。内ももや付け根が「痛気持ちいい」範囲で。
- ③腰が丸まる … うつ伏せや立った姿勢で、軽く腰を反る動きを。(反る方向が自分に合うかの見極めは、腰の記事も参考に)
- ④膝が伸びない … 座って膝の裏をゆっくり伸ばす。
一番大事なのは「続けられる形」にすること
どんなにいい動きも、続かなければ変わりません。ここが、実は一番のポイントです。
- 1日のどこでやるかを決める(お風呂上がり、寝る前、テレビを見ながら、など)
- ちょっとした空き時間を使う(歯みがき中、お湯がわく間、など)
- 「良くなる方向」が見つかったら、そこに時間を集中する
「頑張ってたくさんやる」より、「合う方向を、少しずつ、毎日」。これが硬さを変えていく現実的な道です。
やりがちな、逆効果なケア
最後に、現場でよく見る“もったいないケア”を。
- 少し動かして、すぐやめてしまう … 硬さは、ちょっと動かしただけでは変わりません。合う方向を、続けることが必要です。
- つらい方向を、無理に頑張る … 痛いのを我慢して伸ばしても、変わりにくい。「ラクになる反応が出る方向」を探すのが先です。
- 自分のタイプに合わないストレッチだけを続ける … 腰が原因の人が股関節ばかり伸ばしても、変わりにくいものです。
まとめ
- 「股関節が硬い」といっても、止まっている場所は人によって違う(曲げる・開く・腰・膝)
- だから、まず自分のタイプを知ることが近道
- 多くの人は、お尻の硬さが関わっている
- 大事なのは、ラクになる方向を見つけて、続けられる形にすること
- 冒頭の「すぐ受診すべきサイン」に当てはまる場合は、まず受診を
硬さは、一気には変わりません。でも、自分に合う方向が見つかれば、少しずつ動きは戻っていきます。今日、一番つらい動作を一つ、確かめるところから始めてみてください。
よくある質問
Q. 毎日ストレッチしているのに、硬いままです。
A. その方向が、自分に合っていない可能性があります。硬さの原因は人によって違うので、「曲げる・開く・腰・膝」のどこで止まっているかを見分けて、ラクになる反応が出る方向に切り替えてみてください。
Q. どのくらいで変わりますか?
A. 個人差が大きく、はっきりとは言えません。ただ、合う方向が見つかると、変化を感じやすくなります。「たくさん」より「合う方向を毎日少しずつ」が近道です。
Q. 痛いのを我慢して伸ばすべきですか?
A. いいえ。痛みを我慢して無理に伸ばす必要はありません。「痛気持ちいい」範囲で十分です。足に痛みやしびれが広がる場合は、中止してください。
個別でのご相談を承っています
ここまでのセルフケアを試しても変わらない、自分のタイプがどれか分からない、という方には、個別でのご相談も承っています。理学療法士が、あなたの状況に合わせたセルフケアをアドバイスいたします。
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参考文献
- French HP, et al. “Adjunctive therapies in addition to land-based exercise therapy for osteoarthritis of the hip or knee.” Cochrane Database of Systematic Reviews. 2022.
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD011915.pub2/full - Moseng T, et al. “The importance of dose in land-based supervised exercise for people with hip osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis.” Osteoarthritis and Cartilage. 2017;25(10):1563-1576.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28648741/


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